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おっさん牧場の鈴木亨さん「情報発信することが大事。継続的な発信で良い出会いに巡り会える」

八王子市堀之内の酪農地域「おっさん牧場」を経営する鈴木亨さん、通称“牧場のおっさん”に、農業・福祉・環境を核とした多岐にわたるまちづくりへの関わりと、これからやりたいことについてざっくばらんにお話いただきました。

鈴木亨さん(牧場のおっさん)インタビュー
八王子市堀之内で「おっさん牧場」を経営する 鈴木亨さん(おっさん)

鈴木亨(すずきとおる)さん

八王子市在住。堀之内地域では“牧場のおっさん”というニックネームで呼ばれる。都内に残る酪農地域「おっさん牧場」で牛と生活しながら多摩ニュータウンに反対し、地権者が自然保護活動をしていることで注目を集める。八王子市の違法残土への取り組みや東京都で初の民地での里山保全地域に指定されるなどの自然保護の動きに貢献。5年前、病気をきっかけに牛との生活を断念し、「社会福祉法人由木かたくりの会」を設立、多摩の若手農家が中心の株式会社フィオ(FIO)へ土地を提供、「一般社団法人八王子協同エネルギー」の市民発電所第一号機として30kwのソーラーパネルを牧場内に設置するなど土地をオープンにすることで人が集まる場を作っている。

WEBサイト:牧場のおっさん
個人ブログ :多摩丘陵の牧場のおっさんの環境福祉

 

── 鈴木さんのまちづくりとの関わりを教えてください

親の代からまちづくりと関わり、農業と福祉で何かできると思っていた

鈴木亨(以下おっさん) 家で牧場をやりながら、12年前に亡くなった父親から引き継ぎ、まちづくりには関わっていた。農業と福祉ってなにか一緒にやると面白いんじゃないかっていうね。

牧場以外の活動では、多摩ニュータウンの里山を残す自然保護活動や社会福祉法人を作ったり、三宅島の噴火の際の避難者と農場や堀之内に里山公園を作ったりしてましたよ。 

 

──(1つずつお話していただきました)

「社会福祉法人由木かたくりの会」を設立

おっさん 父親が亡くなった時に、父がやっていた福祉施設を社会福祉法人にしようと動きだしたんだ。「あなたのように経験のない農家の方に社会福祉法人が作れるわけがない」と、周りの方にはかなり言われたんだよね。設立までは色々な事件もあったんだけど、それまでのまちづくりの活動で出会った色々な方に助けてもらい社会福祉法人を設立することができたんだ。設立したのは「社会福祉法人由木かたくりの会」という名前なんだけど、八王子市の福祉施設の中でもトップクラスだと思ってるね。

収入という意味では、社会福祉法人から地代をいただくことで食べていけるようになったんだ。 この安定収入があるから今のわたしがあるんだと思うよ。

 

農業、環境、福祉がぼくの源泉。

おっさん 現実的には障害者が企業で働ける可能性は低いと思う。なので、ぼくやまちの人と一緒に農業ができて生活していければこんなにいいことはないと思うんだ。テレビのニュースなどでヤギが除草するのでニュースになったりしているがそんなのは単純で知恵がないなと思うよ。なんで福祉施設といっしょにやって福祉に絡めた仕事にしていかないんだろうなと思う。あとさ、地域の子供達が遊べる場がある景観は素晴らしいよ。ただの芝生があるだけじゃなく動物と人と子供がいて関わっている状態が本当のふるさとづくり、まちづくりになるのではないかと思っていて、そこにお金が生まれるか生まれないかは、わからないけどやるべきことだと思うんだ。

福祉施設の人がもっとまちに出る必要がある

おっさん 外に出たほうがよいのではと提案しているんだけど、なかなかまちに出ていないんだ。かたくりの会の利用者とみんなで野菜を作っているんだけど、作った野菜を施設の中でしか売っていないので外で集まる場所を自分たちで作って野菜の即売をしたりといろんな取り組みをしていけばいいと思う。今度さ、近所の公園で野菜を売る場を作ろうと動いている。民間は公園に入れないけど福祉施設はOKなのでライバルがいない。この場を使って野菜を販売することがうまく定着すれば工賃を増やす形が作れるんじゃないかと思ってやろうとしているんだ。これは期待しているよ。

 

福祉施設に農地を提供

 

 

 

6ヘクタールの公園「堀之内寺沢里山公園」の設立に尽力

おっさん 堀之内寺沢里山公園は多摩ニュータウン19住区の近隣公園としてできた。 隣接してる酪農集落と住宅地との合い間にあり、酪農家との話し合いの中で 農業公園構想という提案の中から生まれた。計画を進める中で農業とニュータウンの接点を求める中でこの公園ができた。もともとある公園と結びつけて、畑や炭焼き、田んぼがあり、もともと近隣公園は集落だった。そこには茅葺の家があったので、それを残して欲しいと要望していたが市の許可が出なかった。計画を進めるURとの話し合いで里山公園の管理棟ができることが決まり、そこで里山のコミュニティの場になった。里山公園はアダプト制度で地域の人たちが管理している。

参考:おっさんが運営するWEBサイトから

 

動物と子供が触れ合う場所づくり

おっさん 牛を飼っていて乳搾りで食べている酪農家は、伝染病が怖いから外部の人たちを入れたくないと思っている。だけどそうじゃなく、福祉施設の方や今の世代のお母さんたちは子供に土に触れ合う機会を作りたいと思っている方が多い。そういうこともあって、田植えをしたり、どろんこで遊ぶイベントをやったりしてるんだ。主に京王線沿線の子供が来て遊んでるよ。そういう地域のつながりは大事だと思う。

 堀之内寺沢公園の田植え体験
堀之内寺沢里山公園で田植え体験をする子供たち

 

 

三宅島の噴火時の避難者と「三宅島げんき農場」を立ち上げる

おっさん 他には、三宅島が噴火した際に東京の八王子近辺に避難してきた方と三宅島でなくこちらでも農場を持ちたいという声から「三宅島げんき農場」というのをつくるお手伝いをしていた。

まず、都立大学の先生と都立大学のサーバを使って、企業の寄付による予算で三宅島の避難者にパソコンを配った。パソコンが使えなかった方へは教えに行ったりしてたよ。ホームページやメーリングリストを作ったり、パソコンが使えない方へは多摩ニュータウンの中にある小学校の先生に協力してもらって、ペーパーで配ったりすることで島民の情報伝達のお手伝いをしていたんだ。そこで村役場の福祉係長さんと仲良くなった。いつ帰れるかわからない三宅島の人の主な収入は新宿のパチンコ屋の掃除が多かった。三宅島の人と話していたとき、「こっちでも農業やれればいいな」という声があったんだ。

そこで、三宅島役場の方と東京都職員とわたしで農地となる場所を探していた。すると協力者が現れ、八王子インターの横に未利用地が畑のまま残っているということでそこを使えと言われたんだ。うまく国の予算を使わせてもらい、その未利用地の畑で立ち上げたのが「三宅島げんき農場」。

 

三宅島げんき農場:http://www.tokyo-np.co.jp/saigai/miyake/miya2001042401.html

 

 

多摩ニュータウンの構想に反対していた

おっさん 入院する前から堀之内の自然保護に立ち向かっていた。地権者が自然保護をすることは滅多にないのはどういうことかというと、自然保護イコール土地を売らないこと。自然保護をするということは土地が売れなくなってしまうということだから、地元の地権者たちの理解を得られるということは滅多にない。だから、地権者が自然保護に立ち向かっているケースは少数派なんだ。

この頃、土地をお墓にするという流れがあった。平米500円から1000円だったものが造成費とかすぐに補えてしまうからね。残土問題は地権者から権利を買う。誰だってお金が欲しいはずだから売っちゃうよね。他の地権者の方は土地を売ったりしていたが、僕は土地を売らず多摩ニュータウンの構想に反対したよ。 この頃には、地権者が自然保護をしているなんてケースはあまりないのでぼくが注目されるようになってしまった。

残土というのは、宅地造成法は東京都が許可権限を持っており東京都と八王子市との間でがなかなか話が進まなかったけど、ずっと現場の声を発信して関係者と議論していたおかげか、八王子市で残土条例という原状回復命令が八王子市で初めて発令された。原状が回復できなかったとしてもさらに悪化するのを止めるという条例だね。

 

5年前に病気になり8ヶ月の入院生活。借金が4000万円になりもう破産だなと思ったこともある

おっさん 5年前に病気になって入院していた。病名は大腸がんと原発性マクログロブリン血症という病気で100万人に5~6人くらいの血液の病気になってしまい、8ヶ月入院していたんだ。2008年9月までは牧場で乳牛をやっていたけど、今は牛はいない。乳牛をやめたのは病気が免疫の病気というのもあってドクターストップがかかったから辞めざるを得なかったんだ。

病院でリーマン・ショックのニュースを見たときはもう終わりだなと思ったよ。この頃、借金が最大で4000万円になりさすがに破産だなと(笑)。ただ、里山を壊す動きでなく守っていくような動きに変わってきたことをみると、地域のデザインをしてきたんだなあと振り返っていたよ。

 

入院しても情報の受発信は怠らなかった。自然を残す動きに変わっていった

おっさん 入院中でもベッドのテーブルにパソコンを置き、ホームページやmixiなどを使い情報の受発信を積極的に行ったよ。病院を抜け出して自然保護の活動に行ったりしてた。それはインターネットがあるから情報を得られた。

そして、自然を残そうという動きになっていた。

東京都の里山保全のことも病院から発信したよ。そのときは他にやる人がいないから東京都環境局の担当者と必要があれば病院を抜けだして議論したりもしていたんだ(笑)

 

退院後、すぐに東京都の民地で初めての里山保全地域に指定される 。そして借金も全額返済。

おっさん 敷地面積は7ヘクタールの土地が、東京都の民地で初めて里山保全地域に指定されると発表された。その発表はちょうど、病院から退院するタイミングで発表されたんだ。

参考: 東京都里山保全地域指定

僕が東京都の自然保護条例をうまく理解していたのが大きかった。なぜみんなが賛同してくれたのかというと、他の方に土地を売るより東京都のほうが高く買ってくれたからという理由が大きいと思う。病気、相続のある人から優先して買ってくれるというもので、一番に売ることができて4000万円の借金を全部返すことができた。

病気でわかったことがある。それは、「障害はあるべき。苦難がないと人間は育たない」ということ。

 

土地をオープンにすることで新しい広がりが生まれる。地域の中である程度生活が成り立つことが最高にいい。

おっさん 日本の土地は個人で所有するということになってるが、里山みたいに色んな人が関わることで維持できるようになっていけばいいと思う。大抵の人は土地があると手放さない。そうじゃなくいろんな人が関わればいろんな人が潤う。それで生計が成り立てばいい。開くことで自分だけの可能性だけじゃなくいろんな関わり方の中でみんなが暮らせればいいと。身近に来られる距離の関わりが大事だと思う。遠くなればなるほどコストがかかる。この地域の中である程度生活が成り立つことが最高なはずだよ。

今では、土地をオープンにしているのでぼくのところに来て話して一緒にできそうな人といろいろやってるよ。例えば、多摩ニュータウンにヤギ牧場を作りたいという株式会社FIOの舩木くんがヤギ牧場や農業用の土地として利用してる。今では彼の思いに共感した若いメンバーが12人もいるんだ。

 

おっさん牧場には世代間を超えた人が集まる場になっている
世代問わず、人が集まる場になっている「おっさん牧場」

 

おっさん 最近では、一般社団法人八王子協同エネルギーが市民発電所を作るということで場所を利用してます。人がいっぱい来て野菜が売れて、さらに自然エネルギーを作れるならいいなと思って協力させてもらってるよ。

 

牧場ソーラー おっさん牧場に市民発電
おっさん牧場にソーラーパネルが設置される

いろんな方と出会い、協力することで未来が見える

おっさん 自分以外を蹴散らしたりよそ者扱いするような田舎者が多くて嫌いだが、共に歩むっていう人は好きで応援したい。たとえば、地域に多摩ニュータウン学会っていうのがあるけど、ここを構成するのは移り住んだ人だけで土地の人は行かない。でも僕は積極的に行くんだ。出る杭を潰すんじゃなく、そういう人たちと協力していくことで未来が見えてくるんじゃないかと思っているから。

 

── いま活動している中で課題はありますか

おっさん 課題はお金がないってことくらい(笑)。でもさ、金がないって大事なこと。金がないから知恵を絞れる。あとは、来る者拒まず否定しないで受け入れるようにしてる。人は否定しないけど、いろんな生き方を知ること、頑張り方、面白い人種がいるんだというだけで励みになる。世の中って面白いなってね。課題ってないんだ、重く考えないようにしてるから。やっていけることをやっていけばいいじゃないと思ってるよ。

 

 

── 活動していく中で大事にしていることを教えてください

「書く」ことが大事。情報発信し続けたことで“今”があると思う

おっさん “牧場のおっさん”のネーミングってラジオ局に送るときのペンネームだったんだ。エフエム多摩放送というコミュニティ放送のラジオ局(現在は閉局している)があって、15年間FAXとかパソコンを使ってメッセージを送っていた。今は牧場のおっさんから“牧場の”を取って“おっさんさん”と呼ぶ人もいるね。ラジオ以外でも里山保全関連のメーリングリストに1万回くらいは投稿したり、ホームページやmixiで発信したりしていた。

僕の中で「書く」ということは大事だったんだ。書くためには頭の中で整理しないと書けないから、決まった時間に整理する作業するのって大事だなって。発信することがない時も、とにかく「◯◯やりたい」ということを情報発信することで協力者が現れていた。何かしたいと言い続けると、誰か案内してくれる人が現れるんだ。書き続けたことでいい方と出会うことができたよ。たださ、最近Facebookで投稿する方もいるけど、何食べたよ、どこ行ったよ、とかそういうのじゃなくて「意味のある情報発信」をしていかないと良い出会いはないと思うな。

 

 

── 今後の構想があれば教えてください 

将来、ほぼすべての暮らしがその単位内で補われる「おっさんビレッジ」をつくりたい 。

おっさん 私欲的なつもりはないけど「おっさんビレッジ」っていうのを作りたいと思ってるよ。おっさんビレッジ、開かれたまちってこと。開いていかなければ顧客も得られないと思う。「おっさんビレッジ」の中でほぼすべての暮らしが補われるようにしたい。ゼロ・エミッションの考え方をベースにして、ある単位の中ですべての暮らしが補われることを目指したいね。それができないから日本がおかしくなっていると思う。この単位の中で排出したものがこの単位の中ですべて循環すれば苦労することはないでしょ。たとえば、大きなまちが抱えてるごみ処理の問題では、個々が処理できないから現実的にはゴミ焼却所にいって費用がかかるでしょ、だけど生ごみを堆肥化して農業などで使うとか個々が処理できる状態ができれば生き方として一番素晴らしいと思うね。ぼくが経験してきたということもあるんだけど、あまり力を持ちすぎると余計なことを考え出すからそれはいらない。お互いが楽しくできればいいと思うんだ。

 

 

── おっさん、ありがとうございました!

 

( インタビュー・文: KOKEGUCHI  編集: HISAKO)